「What kind of the Bank do we want?」
アニキ(元都市計画専門の現改革局長。皆が本名を短縮してAniと呼ぶので、僕は心の中でこう呼んでいる)が、いつもの質問を興奮気味に繰り返す。局長というと前の部署では少し遠い、偉い人だったが、アニキはこの10数人の小さなチームの皆にとってその名の通り兄貴分。秋の年次総会の最中、改革事務局にとっては一大イベントの中間管理職の大集会から帰ってきた彼は、世銀の実務の中心を担うCD/CM/SD/SM(マトリックスを担う局長・課長達:カントリーディレクター、カントリーマネージャー、セクターディレクター、セクターマネージャー)全員と丸々2日議論してまとめた数十項目の改革提言をレビューし、次のアクションを決めようとしていた。
アネキ(元欧州のカントリーマネージャーで百戦錬磨のMelanie課長、勝手にこう呼んでいる)と僕とで対応図をまとめる。進行中の改革プロセス全体に、何がどうはまるのか。
• 商品・サービス: Program for Results(開発成果に応じて融資を動員する貸出形態)、Fee Based Service(主に中所得国の要請で、貸出を行わずフィーを貰って政策アドバイスを行う)、Global Partnership Program(個別借入国向けでなく、地球公共財の提供に関わるドナー政府や財団等との協働)等々、新しいもの・一貫した制度が追いついていない分野の枠組づくりと定着化
• 組織構造:マトリックス改革(FPDパイロット、ネットワーク組織の役割再定義、セクターボードと呼ぶFPD以外での地域横串母体の強化、等)、Decentralization(ワシントン本部集約からクライアントに近い組織へ)、知識パートナーシップ(開かれた世銀に向けたOpen Dataを初めとする情報公開施策、セクター横断分野での外部協業を担うKnowledge Platform、等)
• 業務基盤:リスク評価やセーフガードに関わる業務ポリシー、マトリックス改革やDecentralization、成果志向を下支えする人事制度・予算管理・情報インフラ
機構改革事務局は、大きく3つの会議体へのアジェンダ設定と議論の題材提供、提言と決定事項のフォローアップそして施策実行のコーディネーションを担っている。まずMLT(マトリックス・リーダーシップ・チーム)と呼ぶ、6人の地域総局副総裁、4人のネットワーク担当副総裁からなるマトリックス改革の母体。KLC(ナレッジ&ラーニング・カウンシル:チーフエコノミストと副総裁の多く)と呼ぶ、学習する組織としての世銀の知識アジェンダの母体。そして、MDs-CFOと呼ぶ、3人のMD(専務理事:副総裁達からレポートを受ける)とCFOからなる改革全般についての責任母体。MDs-CFOは四半期毎に改革の進捗をみて、大きな方向は年1回程度、総裁が議長を務める理事会に上げる。また、個別に重要な事案については理事会の関連分科会で都度議題に上げるしくみになっている。
Source: Organization Chart of the World Bank Effective October 3, 2011
理事会の要請をうけて進む改革項目は多い。世銀は188カ国の加盟国政府が所有する開発組合。各国はその出資比率に応じて株主として、また開発援助の供給者また需要者として、政府が派遣するED(Executive Director:理事)を通じて世銀のあり方を監督する。昨今はどの政府も財政が厳しいので、世銀にはいきおい、限られた資源で最大の成果を上げる期待が強くなる。
他方で、理事会や専務理事や副総裁の目からみて必要な改革は、中間管理層や前線の「個人事業主」が望む改革と同じとは限らない。各々善意で行われた制度や手続きの変更が、首尾一貫を欠いて現場を苦しめる齟齬は過去に散々繰り返されてきた。国や地域毎に、課題分野毎に、まったく違う現場がある。そうでなくとも世銀では過去数十年間、改革といえば人員カットや監視機能の追加など、職員からみるとどうにも嬉しくない話が多い。上から降ってくる改革では到底進まない。
中間管理層については去年から始まった半年に一度の大集会が定常化し、またセクターマネージャーの中から数十人が手を挙げて特に重要な課題についてワーキンググループを結成し、自らが良い仕事をする環境を作るための自らによる改革、という見方が徐々に定着した。また、より広く職員の声を集めようと、専務理事の発案による行内サーベイをつい先日実施。
前線のスタッフがクライアントを支援するうえで、世銀の機構がどの程度助けになっているか? 10点満点で回答の全体平均は4.5と、経営層が重く受け止めるべき低い数字が出た。特に重要な阻害要因が特定され、個別具体的な改善提案が数多く寄せられ、行内ブログではサーベイ結果と改善施策についてスタッフと専務理事の間で活発な討論が始まった。さまざまなフィードバックチャネルを通じて随時出てくる課題指摘や改革提言は、支流が合流して大河になるように、経営陣に意思決定を迫る改革の文脈を形作ってゆく。
更によく声を聞くべき相手はクライアント(借入国政府)。散発的なサーベイは過去に何度もあるが、世銀のサービス全体としてどこがよく、どこに改善の余地があるか、定点観測して改革に反映するプロセスはこれからだ。また、Open DataやOpen Governmentといった、プロジェクト成果を詳細に可視化してクライアント政府のみならず市民社会や裨益者を直接エンパワーする最近の取り組みも、世銀が世界に合わせて自らを作り変えるプロセスによりよく組み込まれなければならない。改革項目は個別の行動計画に落とせば自然と細かく数も多くなる。全体としての目指す姿や首尾一貫した工程表は一見あるようで、めまぐるしく変わる世界経済に随時適応を続けるmoving targetでもある。透明で開かれていて成果に対する説明責任が果たせ、全体が部分の集合以上の価値を提供でき、俊敏に変化に対応し自らを作り変え続ける組織へ。改革自体の実施と並行して、世銀の改革キャパシティビルディングはまだまだこれからだ。
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今から遡る事約2ヶ月前。改革事務局での仕事の全貌がようやく見え始めた頃。「セクターマネージャーのアンケート結果がそろそろ出揃ったわね。ちょっと中見て、何が言えるか考えて、MLTへのプレゼンまとめてくれない?」
アネキの指示はいつもこんな感じで結構ざっくりだ。サーベイモンキーというツールを使って手早く実施したアンケートには、1週間足らずで世銀の各地域・ネットワークの課長100人弱のうち半数以上が回答を寄せていた。アニキは「おう、それ超大事だから宜しく頼む」とだけいって、相変わらずどたばた走り回っている。日々、他のどの部署にも落ち着かない前広事案が舞い込んで、どうもこのチームはストレッチ気味。
2年も前から散々分析や提言が出されながら経営判断を下せていない、セクターマネージャーの「Span of Control問題」。課長1人あたりに直接レポートする部下の数が、民間企業の水準からみても、IMFや他の地域開発銀行の水準から見ても、世銀では異常に多い。課長の責任権限範囲の広さ、上にいる局長や下にいるセクターリーダー・クラスターリーダーなど諸々の責任者との分担の曖昧さ、承認や決済の多さ煩雑さ、ポートフォリオ品質管理をめぐる技術的な専門分野の細分化、またDecentralizationの推進による部下の地理的分散化とも相俟って、負荷は増え続ける一方で予算は削られ続けたために、セクターマネージャーは「世銀で一番惨めな仕事」というレッテルが貼られるまでになった。
アンケートの回答および過去の諸々の分析資料に目を通して愕然とする。これは単に業務の円滑化とか効率化という次元の問題ではない。監督不行き届きから発生するかもしれないプロジェクトの品質リスクや世銀の評判の毀損リスク、マネージャーが適切に若手を指導・育成するための部署の適正規模、現場責任者が目先の火消しを超えて長期にクライアント・パートナーとの関係構築や地域横断の知識創出に投資するマトリックス改革の趣旨、他あらゆる側面からみて、ここを真っ先に解決しなければ他が回ってゆかない最重要事案に見える。しかし部署の規模とか課長の数と責任範囲といえば、予算配分や個々人の昇進機会に絡む、それなりに紛糾しそうなイシュー。これまで決着していないのもうなづける。どう立論するか・・・。
あちこち駆けずり回ること数日、人事や予算やプロジェクト品質のデータを集め、過去の資料とアンケート結果とを合わせて5枚程のスライドにする。ざっと一覧したアネキの目が、眼鏡の奥でキラーンと光る。「これならイケるかも。すぐ課長のワーキンググループを召集してちょうだい」 改革事務局での最初の大仕事の幕開けだった。(続く)

Photo credit: Simone D. McCourtie / World Bank


















