IFCダカール事務所の小辻です。
突然ですが、みなさんは、アフリカがどのくらい大きい大陸か、実感ありますでしょうか?
知らない方は、以下の地図を見てください。なんと、中国、インド、アメリカがすっぽり入ってしまいます。
アメリカ東海岸に住んでいた頃、「先週の連休で西海岸まで飛んでさ、超長旅で疲れちゃったよ」なんてかっこよさげに言っていたものですが、アメリカ横断の距離なんて、アフリカで考えれば、アフリカ西端のセネガルから中部アフリカのチャドまで行けるか行けないかのちょっとした距離なわけです。
さて、この巨大なアフリカ大陸で、土地(耕作可能地)が大きく余っており、アフリカそして世界の食糧問題を解決する上で、ここを開発することはとても重要になる、というような論調がここ数年メディアでよく聞かれます。アフリカは世界の耕作可能地(arable land)の1/4を持ちながら、世界の食糧生産の10%しか生産していないのです。そして、アフリカは、世界の耕作可能地でまだ開墾されていない土地(the world's remaining uncultivated farmland)の60%を有しているとのこと。(以上、“The Guardian”誌より)。こういう数値を見れば、マクロ的には、アフリカは巨大な農業可能性があるから、いつかはアフリカの栄養不足や世界の食糧問題は、アフリカの農業開発によって解決されるだろうという見方は正しいと思います。
更にもう一段階掘り下げると、「アフリカ」はひとくくりで見られることが多いのですが、実は西アフリカと東アフリカは、あたかも別の大陸かと思うくらい、農地の開発状況が違うのです。東・南部アフリカには何千・何万ヘクタールという規模の大規模穀物農場がたくさんあるのに、西・中央アフリカでは、コートジボワールやガーナなど降雨量の多いギニア湾沿岸の国の、植民地時代以来の権益に基づくヤシ油やゴムや輸出用果物(バナナ、パイナップルなど)の巨大農園を除けば、穀物や野菜などの巨大農園はほとんど見かけません。土地の所有権構造が複雑だったり、背景にはいろいろな事情があるようです。ましてや降雨量が少なく灌漑が難しいセネガル・マリなどのサヘル地帯では100ヘクタール以上の大規模農業は皆無といっていいでしょう。それを如実に反映するのは穀物の輸入量。セネガルの主食のお米の80パーセントは輸入に頼っているといわれます。
昨年ソマリアやケニアなどで大飢饉があり、マリやニジェールでも食糧不足が深刻化しつつある今日、アフリカの食料安全保障を確保するには、大規模で効率のよい農場をつくることは重要な選択肢のひとつでしょう。(もちろん、一時期メディアを騒がせた「Land Grab」といわれる地元住民の居住権や雇用を無視して力で土地を取得するのは論外として、農場構築のための土地取得に際して住民の権利を守ることや、森林破壊など環境インパクトに配慮すること、そして大規模農業と同時に小規模農家ひとつひとつの生産性を上げていくことも大切です)。
こういった大所・高所から見ていくと、巨大なポテンシャルを秘めるアフリカの農業ですが、ミクロ的に、実際に西・中部アフリカで大規模農業にチャレンジしている人々から話を聞きながら実現可能性をつめていくと、ことはそんなに簡単ではないのです。
以下、実例を見ていきましょう。
実例1:コンゴ民主共和国
少し前に、コンゴの南部で実際に大規模農場を運営している人の話を聞く機会がありました。それによると、まずは農場の建設費用が異常に高いとのこと。
まず、土地を耕すためにトラクターが必要ですが、現地でトラクターを一台借りるのに、1時間3万円かかるそうです(ちなみに南アフリカでは6000円)。その辺に生えている木を抜いたり蟻塚を崩ずなど結構な手間がかかり、1ヘクタール開墾するのに約20-30万円かかるそう。
灌漑設備の敷設も大変みたいです。公共の用水路みたいなものは当然ないので、センターピボットという機械を使います。センターピボットとは、写真のように、巨大なコンパスみたいな放水機がぐるぐる回って畑に水をやります。オーストラリア、南アフリカ、ザンビアなどの大規模農場の多くはこのセンターピボットを使っているというくらいとてもメジャーな機械。

Photo credit: http://www.waterencyclopedia.com
まさにコンパスの原理で動くので、畑は巨大なミステリーサークルみたいな形になります。

Photo credit:http://www.kgs.ku.edu
このセンターピボットですが、コンゴでは、これを南アフリカから運んでくるのに、莫大な輸送費がかかります。加えて、機械類の輸入には20パーセント近くの関税(+ 賄賂)もかかります。そして、いざこのピボットを動かそうとすると電気が必要なのですが、電力会社からの電力供給があてにならないので、発電機を使いディーゼルを燃やしまくって発電します。加えて、ハイブリッドの種子や肥料は輸入に頼るので、ピボットと同じように輸送費や関税を入れると割高になってしまう。
こうやって、諸々の設備投資、運営費用を積み上げていくと、コンゴで農業をやるのは南アフリカで農業をやるのの、何割増しものコストになるそうです。
これに追い討ちをかけるのが税金。コンゴのこの地方の企業は、なんと粗利益(税引き前利益じゃない)の40%が税金としてもっていかれるそうです。農業企業向けの税金優遇策(Code d’Investissement)があって、この審査を受けたいそうなのですが、何回申し込みをして待てど暮らせど税務当局から連絡がないそうです。
一応、この話をしてくれた農場は、コンゴ南部で有数の大企業が大株主として入っているので、そこからの湯水のようにエクイティーが注入されて、これまでの設備投資と損失補填ができてきたそうです。やっとある程度の規模の経済が出てきて、わずかながらも利益が出るようになってきたそうです。でも、こういう大株主がついていない独立系の農場は膨大な初期投資とランニング・コスト(運営費用)に耐え切れず、ことごとく消えていったそうです。
こういう状況なので、ましてや普通の家族経営の小規模農家が生産性向上のための投資をするなどはまず難しいようです。
生産者が置かれている厳しい状況の一方で、大きく儲かっているのが、海外から食料を輸入して現地市場で販売しているトレーダーたち。地元で食料を作るコストがあまりに高いので、海外(生産コストが相対的に安い南アフリカ、ザンビア、ブラジル、アメリカなど)から食品を仕入れても、高い輸送コストをチャラにできるくらい魅力的な値段で売ることができます。
コンゴや近隣のアンゴラについてはいろいろ調べましたが、パスタ、小麦粉、バター、粉ミルク、食用油、調味料などを輸入販売している大きな会社がいくつかあり、彼らはスーパーなどのリテールにも進出しており、どの会社もかなりの利益率を誇っているようです。
トレーディングで蓄えた資本を投資して、農業や食品加工業に入ろうとしている会社もあるようです。彼らのように資金力のある会社であれば、前述した高い初期投資にも耐えられるし、食品の販売網は既に持っているなのでマーケットリスクも少ないわけです。
こういった事情を踏まえると、投資家である僕らとしては、ピュアな食品生産業者に投資するよりも、アフリカの大きな食品トレーダーをマッピングして、彼らが食品生産ビジネスに入っていくのをサポートするという作戦のほうがリスクが少ないのかもしれません。この「トレーダーからアプローチ作戦」は今年追いかけてみたい投資テーマのひとつです。
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実例2:セネガル北部の農場
こういう事情の中で、セネガル北部のセネガル川流域というのは西アフリカの中でも気を吐いている地域の一つです。乾燥地帯とはいえ、セネガル川の水量はそれなりにあるので大規模な灌漑農業が可能です。JICAやUSAIDなどもこの地域でお米などの食料増産プロジェクトを行っています。
最近、フランスの超巨大果物会社でプランテーションマネージャー長年つとめたフランス人が、引退後にセネガルではじめたトウモロコシ農場を訪問する機会がありました。500ヘクタール弱の耕地を誇り、僕の知る限り、西アフリカのサヘル地帯でもっとも大きな農場の一つです。更なる耕地拡大のために設備投資が必要で、資金需要があるので、一度見にきてバンカーとしての意見を聞かせてくれ、と招待されたので、行ってきました。
センターピボットの灌漑システムで豊かに育ったトウモロコシは、ちょうど収穫の時期。トウモロコシをもいでそのまま食べましたが、びっくりするくらい甘い!
下の写真は、海からの塩水が逆流して灌漑システムに悪影響を及ぼすということで、つくられた堤防。ちょうどモーリタニアとセネガルの国境沿いなので、写真の右端に青い衣をまとったモーリタニア人と、セネガル人が仲良く堤防を渡って歩いてくるのが見えます。

セネガル川から水をくみ上げて灌漑システムにつないでいく巨大ポンプ
トウモロコシの裏作として、タマネギを植えています。
6年前にスタートした新しい農園で、短い期間にここまで纏め上げたこのフランス人のアントレプレナーに尊敬の念をいだきました。
この農場の成功要因として、このアントレプレナー自身の経験、自己資本でできる範囲で小さく事業を始めてあまり借入に頼らなかった、などの要因が挙げられます。また、土地の取得にあたって、地元住民コミュニティーを巻き込んで議論を尽くした上で土地使用権を得たことも大きいでしょう。
時折、海外投資家が、政府と直接交渉して何千ヘクタールという土地使用権を得るのですが、いざ農地開発をはじめると地元住民との関係をこじらせて、暴動などが起き、NGOなどに「Land Grabしてんじゃねーよ」と叩かれ、撤退を余儀なくされる、というケースも見られるので。また、セネガル政府のサポートやマクロ面が大きかったと思います(もちろん課題は山のようにあるのですが、政府の税制優遇策などキーになる政策がいくつか実現していて、セネガル川の海水逆流防止ダムやこの農場近辺の道路など、しっかりしていたインフラが農場の周りにあった)。
僕が担当しているセクターの多くは、個別企業のミクロレベルの戦略だけで勝てる場合が多いのですが、農場の場合は政府の政策や周辺インフラなどのマクロ面の影響があまりにも大きく、この面をしっかり理解しなければ投資判断はできません。なので、各国政府や、世銀などのドナーの政策をにらみながら、マクロ面での投資環境がしっかりしている場所で、競争優位がある(例: 国内市場向けの作物ならば生産コストが輸入品より競争力がある、輸出品ならばグローバルレベルでコスト競争力があり穀物価格が下がってもある程度の利益が上がる、あるいは他の生産国とは異なる季節に作物を収穫できる、など)プロジェクトをひとつひとつ丁寧に拾ってファイナンスをつけていきたいと思っています。
このセネガル北部の農場のアントレプレナーなどの人たちが成功して、西アフリカでも大規模農業は成り立つ、というデモンストレーション効果が出てこれば、農業に投資する投資家も増えていくだろうし、サヘルでの農産物生産量も上がっていくと思います。そういう意味で、この農場はなんとかサポートしたい融資候補先のひとつです。
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ややとりとめのない文章になってしまいましたが、センセーショナルな雑誌の記事などの裏側にある、現場での地味な農地開発へのチャレンジの雰囲気が少しでも伝われば幸いです。









