2012年05月15日

西・中央アフリカの農地開発について



IFCダカール事務所の小辻です。

突然ですが、みなさんは、アフリカがどのくらい大きい大陸か、実感ありますでしょうか?
知らない方は、以下の地図を見てください。なんと、中国、インド、アメリカがすっぽり入ってしまいます。

アメリカ東海岸に住んでいた頃、「先週の連休で西海岸まで飛んでさ、超長旅で疲れちゃったよ」なんてかっこよさげに言っていたものですが、アメリカ横断の距離なんて、アフリカで考えれば、アフリカ西端のセネガルから中部アフリカのチャドまで行けるか行けないかのちょっとした距離なわけです。

Africa Map.gif

さて、この巨大なアフリカ大陸で、土地(耕作可能地)が大きく余っており、アフリカそして世界の食糧問題を解決する上で、ここを開発することはとても重要になる、というような論調がここ数年メディアでよく聞かれます。アフリカは世界の耕作可能地(arable land)の1/4を持ちながら、世界の食糧生産の10%しか生産していないのです。そして、アフリカは、世界の耕作可能地でまだ開墾されていない土地(the world's remaining uncultivated farmland)の60%を有しているとのこと。(以上、“The Guardian”誌より)。こういう数値を見れば、マクロ的には、アフリカは巨大な農業可能性があるから、いつかはアフリカの栄養不足や世界の食糧問題は、アフリカの農業開発によって解決されるだろうという見方は正しいと思います。

更にもう一段階掘り下げると、「アフリカ」はひとくくりで見られることが多いのですが、実は西アフリカと東アフリカは、あたかも別の大陸かと思うくらい、農地の開発状況が違うのです。東・南部アフリカには何千・何万ヘクタールという規模の大規模穀物農場がたくさんあるのに、西・中央アフリカでは、コートジボワールやガーナなど降雨量の多いギニア湾沿岸の国の、植民地時代以来の権益に基づくヤシ油やゴムや輸出用果物(バナナ、パイナップルなど)の巨大農園を除けば、穀物や野菜などの巨大農園はほとんど見かけません。土地の所有権構造が複雑だったり、背景にはいろいろな事情があるようです。ましてや降雨量が少なく灌漑が難しいセネガル・マリなどのサヘル地帯では100ヘクタール以上の大規模農業は皆無といっていいでしょう。それを如実に反映するのは穀物の輸入量。セネガルの主食のお米の80パーセントは輸入に頼っているといわれます。

昨年ソマリアやケニアなどで大飢饉があり、マリやニジェールでも食糧不足が深刻化しつつある今日、アフリカの食料安全保障を確保するには、大規模で効率のよい農場をつくることは重要な選択肢のひとつでしょう。(もちろん、一時期メディアを騒がせた「Land Grab」といわれる地元住民の居住権や雇用を無視して力で土地を取得するのは論外として、農場構築のための土地取得に際して住民の権利を守ることや、森林破壊など環境インパクトに配慮すること、そして大規模農業と同時に小規模農家ひとつひとつの生産性を上げていくことも大切です)。

こういった大所・高所から見ていくと、巨大なポテンシャルを秘めるアフリカの農業ですが、ミクロ的に、実際に西・中部アフリカで大規模農業にチャレンジしている人々から話を聞きながら実現可能性をつめていくと、ことはそんなに簡単ではないのです。

以下、実例を見ていきましょう。

実例1:コンゴ民主共和国

少し前に、コンゴの南部で実際に大規模農場を運営している人の話を聞く機会がありました。それによると、まずは農場の建設費用が異常に高いとのこと。

まず、土地を耕すためにトラクターが必要ですが、現地でトラクターを一台借りるのに、1時間3万円かかるそうです(ちなみに南アフリカでは6000円)。その辺に生えている木を抜いたり蟻塚を崩ずなど結構な手間がかかり、1ヘクタール開墾するのに約20-30万円かかるそう。

灌漑設備の敷設も大変みたいです。公共の用水路みたいなものは当然ないので、センターピボットという機械を使います。センターピボットとは、写真のように、巨大なコンパスみたいな放水機がぐるぐる回って畑に水をやります。オーストラリア、南アフリカ、ザンビアなどの大規模農場の多くはこのセンターピボットを使っているというくらいとてもメジャーな機械。

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Photo credit: http://www.waterencyclopedia.com

まさにコンパスの原理で動くので、畑は巨大なミステリーサークルみたいな形になります。

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Photo credit:http://www.kgs.ku.edu

このセンターピボットですが、コンゴでは、これを南アフリカから運んでくるのに、莫大な輸送費がかかります。加えて、機械類の輸入には20パーセント近くの関税(+ 賄賂)もかかります。そして、いざこのピボットを動かそうとすると電気が必要なのですが、電力会社からの電力供給があてにならないので、発電機を使いディーゼルを燃やしまくって発電します。加えて、ハイブリッドの種子や肥料は輸入に頼るので、ピボットと同じように輸送費や関税を入れると割高になってしまう。

こうやって、諸々の設備投資、運営費用を積み上げていくと、コンゴで農業をやるのは南アフリカで農業をやるのの、何割増しものコストになるそうです。

これに追い討ちをかけるのが税金。コンゴのこの地方の企業は、なんと粗利益(税引き前利益じゃない)の40%が税金としてもっていかれるそうです。農業企業向けの税金優遇策(Code d’Investissement)があって、この審査を受けたいそうなのですが、何回申し込みをして待てど暮らせど税務当局から連絡がないそうです。

一応、この話をしてくれた農場は、コンゴ南部で有数の大企業が大株主として入っているので、そこからの湯水のようにエクイティーが注入されて、これまでの設備投資と損失補填ができてきたそうです。やっとある程度の規模の経済が出てきて、わずかながらも利益が出るようになってきたそうです。でも、こういう大株主がついていない独立系の農場は膨大な初期投資とランニング・コスト(運営費用)に耐え切れず、ことごとく消えていったそうです。

こういう状況なので、ましてや普通の家族経営の小規模農家が生産性向上のための投資をするなどはまず難しいようです。

生産者が置かれている厳しい状況の一方で、大きく儲かっているのが、海外から食料を輸入して現地市場で販売しているトレーダーたち。地元で食料を作るコストがあまりに高いので、海外(生産コストが相対的に安い南アフリカ、ザンビア、ブラジル、アメリカなど)から食品を仕入れても、高い輸送コストをチャラにできるくらい魅力的な値段で売ることができます。

コンゴや近隣のアンゴラについてはいろいろ調べましたが、パスタ、小麦粉、バター、粉ミルク、食用油、調味料などを輸入販売している大きな会社がいくつかあり、彼らはスーパーなどのリテールにも進出しており、どの会社もかなりの利益率を誇っているようです。

トレーディングで蓄えた資本を投資して、農業や食品加工業に入ろうとしている会社もあるようです。彼らのように資金力のある会社であれば、前述した高い初期投資にも耐えられるし、食品の販売網は既に持っているなのでマーケットリスクも少ないわけです。

こういった事情を踏まえると、投資家である僕らとしては、ピュアな食品生産業者に投資するよりも、アフリカの大きな食品トレーダーをマッピングして、彼らが食品生産ビジネスに入っていくのをサポートするという作戦のほうがリスクが少ないのかもしれません。この「トレーダーからアプローチ作戦」は今年追いかけてみたい投資テーマのひとつです。

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実例2:セネガル北部の農場

こういう事情の中で、セネガル北部のセネガル川流域というのは西アフリカの中でも気を吐いている地域の一つです。乾燥地帯とはいえ、セネガル川の水量はそれなりにあるので大規模な灌漑農業が可能です。JICAやUSAIDなどもこの地域でお米などの食料増産プロジェクトを行っています。

最近、フランスの超巨大果物会社でプランテーションマネージャー長年つとめたフランス人が、引退後にセネガルではじめたトウモロコシ農場を訪問する機会がありました。500ヘクタール弱の耕地を誇り、僕の知る限り、西アフリカのサヘル地帯でもっとも大きな農場の一つです。更なる耕地拡大のために設備投資が必要で、資金需要があるので、一度見にきてバンカーとしての意見を聞かせてくれ、と招待されたので、行ってきました。

センターピボットの灌漑システムで豊かに育ったトウモロコシは、ちょうど収穫の時期。トウモロコシをもいでそのまま食べましたが、びっくりするくらい甘い!

Maize_Small.jpg

下の写真は、海からの塩水が逆流して灌漑システムに悪影響を及ぼすということで、つくられた堤防。ちょうどモーリタニアとセネガルの国境沿いなので、写真の右端に青い衣をまとったモーリタニア人と、セネガル人が仲良く堤防を渡って歩いてくるのが見えます。

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セネガル川から水をくみ上げて灌漑システムにつないでいく巨大ポンプ

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トウモロコシの裏作として、タマネギを植えています。

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6年前にスタートした新しい農園で、短い期間にここまで纏め上げたこのフランス人のアントレプレナーに尊敬の念をいだきました。

この農場の成功要因として、このアントレプレナー自身の経験、自己資本でできる範囲で小さく事業を始めてあまり借入に頼らなかった、などの要因が挙げられます。また、土地の取得にあたって、地元住民コミュニティーを巻き込んで議論を尽くした上で土地使用権を得たことも大きいでしょう。

時折、海外投資家が、政府と直接交渉して何千ヘクタールという土地使用権を得るのですが、いざ農地開発をはじめると地元住民との関係をこじらせて、暴動などが起き、NGOなどに「Land Grabしてんじゃねーよ」と叩かれ、撤退を余儀なくされる、というケースも見られるので。また、セネガル政府のサポートやマクロ面が大きかったと思います(もちろん課題は山のようにあるのですが、政府の税制優遇策などキーになる政策がいくつか実現していて、セネガル川の海水逆流防止ダムやこの農場近辺の道路など、しっかりしていたインフラが農場の周りにあった)。

僕が担当しているセクターの多くは、個別企業のミクロレベルの戦略だけで勝てる場合が多いのですが、農場の場合は政府の政策や周辺インフラなどのマクロ面の影響があまりにも大きく、この面をしっかり理解しなければ投資判断はできません。なので、各国政府や、世銀などのドナーの政策をにらみながら、マクロ面での投資環境がしっかりしている場所で、競争優位がある(例: 国内市場向けの作物ならば生産コストが輸入品より競争力がある、輸出品ならばグローバルレベルでコスト競争力があり穀物価格が下がってもある程度の利益が上がる、あるいは他の生産国とは異なる季節に作物を収穫できる、など)プロジェクトをひとつひとつ丁寧に拾ってファイナンスをつけていきたいと思っています。

このセネガル北部の農場のアントレプレナーなどの人たちが成功して、西アフリカでも大規模農業は成り立つ、というデモンストレーション効果が出てこれば、農業に投資する投資家も増えていくだろうし、サヘルでの農産物生産量も上がっていくと思います。そういう意味で、この農場はなんとかサポートしたい融資候補先のひとつです。

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ややとりとめのない文章になってしまいましたが、センセーショナルな雑誌の記事などの裏側にある、現場での地味な農地開発へのチャレンジの雰囲気が少しでも伝われば幸いです。

posted by 世銀スタッフ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小辻 洋介

2012年05月08日

中国農村での調査


みなさま、こんにちは。

今回は中国の案件について書きたいと思います。以前にも何度かブログで中国の農村を訪れたことを書きましたが、農村での日常情報伝達・コミュニケーションのあり方、ICT(情報通信技術)への意識や利用頻度などに関する調査がようやく完了し、その最終レポート完成前の意見交換会のために北京に行ってきました。

この調査、話せば長くなるのですが、企画から実際に現地調査を開始するまでに足がけ2年余りでしょうか、かなり時間を要しました。というのも、中国政府は外国の組織が中国内で調査をすることをかなり厳しく制限しており、特に農村部に関しては外国の組織があまり外の文化に接していない農民に直接調査するなんてとんでもない、ましてや反政府的な結果が出たらどうするんだ、と難色を示していました。

最終的には中国政府に付属する研究機関との連携により調査を進めることができるようになったのですが、改めて質問表のレビューを繰り返し行ない、調査内容の承認を得てから現地での調査開始となりました。仕事といえど、ここまでたどり着くのは本当にしんどくて、はじめのうちは、外国の機関に関する中国国内での調査の制限というところでひっかかっていたのですが、そのうちに中央省庁間の権力争いというかポリティックスに巻き込まれ、当初この案件を担当していた中国人のチームリーダーでさえ調査中止を考えたほどでした。

そんな経緯を経て実施された調査なのですが、実に面白い結果が出ました。詳しくはまだ述べられないところもあるのですが、私が個人的に衝撃を受けたのは、「無関心」という問題です。中国の場合、アフリカなどの途上国とは違い、かなりの地方でも基本的なインフラは整っていて、携帯の電波もあるしインターネットのサービス自体もわりと存在しています。さらにコンピュータの購入に関しては農民対象の政府助成金制度があり、興味があれば購入可能です。

しかし、実際調査してみると携帯電話に関してはかなり普及しているものの、コンピュータやインターネットに関しては、興味や使用することの利点がないため所有していない、もしくは使う必要を感じない、といった回答が目立ちました。実際に私が立ち会った家計調査でも、農民の方は農作業と家事でとても忙しいからそんなものに時間を費やしている暇はない、とはっきり言っておられました。

その一方で、中国政府は近年の経済成長で格差が拡大している都市部と農村部の是正のためにたくさんをお金を農村部に投資し、各省庁、中央、地方政府ともに農村部でのICT普及に関するプロジェクトを数多く実施しています。具体的に何をしているかといえば、小学校や役場へのコンピューターの設置や農村テレセンター(コンピューターやインターネットのトレーニングが受けられるもしくは無料でインターネットが使えるコミュニティセンター)の設置など、ハードの投資がほとんどで、現地の人々の生活パターンや何を欲しているのかを調べることなく、上からの決定で物資が購入され、現地に設置され、会計上決裁され、各省庁の援助目標達成、ということになってプロジェクトが完了していることが多く、導入後のフォローアップやメインテナンスはあまりなされていないこともわかりました。

この予算消化のためだけのような上からの支援、そして、インフラはあるものの現地の人たちの無関心さが農村部でのICT利用の大きなボトルネックになっている中国の状況、これは私が今までアフリカの案件で目の当たりにしてきた、興味がある人たちはたくさんいるのにインフラ自体が存在していないためICT利用ができない状況とはとても対照的であり、改めてデマンド喚起(平たくいえば、どうしたら人々はもっと新しい技術(コンピュータやインターネット)を使いたくなるのか)の需要性を考えさせられました。

アフリカのような人口の過半数が若者で占められ、やる気がある若いパワーに満ち溢れているものの、インフラ整備が遅れており、さらに外国製品の課税などでコンピュータなどの電化製品が限られている低所得国と、中国のように高齢化(特に農村部)が進む中進国で、インフラは整備されているものの、新しい技術に関して無関心な人々が地方に沢山いる状況。いったいどちらか将来成長を遂げる可能性があるのでしょうか。

難しい問題ですが、世銀の中でも珍しくいろんな地域をまたがって同じセクターのオペレーションを経験できる部署での仕事の醍醐味を感じます。

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中国・貴州省の農村テレセンターにて (筆者撮影)
posted by 世銀スタッフ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 木村 薫

2012年05月01日

世銀の比較優位−春の経営会議(前編)



「Help us help the new President - we'll brief him from the next week. 」

「THE BANK IS US. If we in this room don't act, who else can? 」

丸2日間続いた経営会議の終盤、3人の専務理事が管理職一同に送ったエール。200名余りの会場は一抹の居心地の悪さ(取り組むべき課題の大きさ)とそれを上回る方向感(ある程度の意思統一、オーナーシップ)とで熱気に満ち、満場の拍手喝采で幕を閉じた。「よっしゃ」「いやはや何とかなった」「疲労困憊・・・」それぞれの想いを胸にアニキ、アネキとハイタッチ。皆分かっていることがひとつ。「本当の仕事は、むしろこれからだ」。

* * *

世銀の組織改革を担うMLT (Matrix Leadership Team) – 各地域担当副総裁6人、地域横断の課題分野を担うネットワーク担当副総裁4人 – の直下にいるのが、各地域内の国別局長・課長(CD/CM)100人、各地域・ネットワーク内のセクター担当局長・課長(SD/SM)150人。世銀のあらゆるクライアントオペレーションを直接所掌する実務の要であり、改革項目を実行に移す当事者でもある。CD/CMは勿論SD/SMも地域によっては現地勤務化が進んだ今、彼ら彼女らが本部で一同に会する機会を作れるのは年に2度、187カ国の株主政府の使節団も集まる春季会合と秋の年次総会だけ。このタイミングに合わせ、内部で経営課題を議論する場を恒例化して今回が2度目の会議になる。

春季会合明けの先週水曜・木曜の2日間。日常業務から距離を置くためにも、本部から程よく離れたホテルに会場を確保。水曜朝一番、「卒業」を控えた総裁と全職員とのタウンホールミーティング(春季会合の結果報告・5年の総裁勤務の振り返り)を経て、直後から本部発のシャトルバスで参加者を会場にピストン輸送。総裁と局長・課長達との対話セッションで1日目は幕を開けた。

現総裁のゼーリック氏は自らForeign Affair誌で述べている通り、苦境に陥っていた世銀を一旦安定化させた、という評価が概ね定着したといってよいように思われる。世銀・クライアント政府双方の情報公開・透明性に関わる諸政策、リザルツ(開発成果)の追求徹底、説明責任の強化といった、基本的な業務基盤の改革を着実に実施(現状は、改革事務局で春季会合に向けて纏めた通称“Modernization Paper”に詳しい)。また、退任前までの間、注力しているGPSA (Global Partnership for Social Accountability – 市民社会への直接支援のメカニズム。政府側の透明性と説明責任を直接裨益者の立場から監視し、開発成果の随時改善に向けたフィードバックループを閉じる結節点ともいえる)を可能な限り推し進めたいとしている。総裁対話セッションは概ねこれらの内容確認だった。

昼を挟んで専務理事や副総裁が入れ替わり立ち代り、参加者への議題をイントロ。前回記事でふれたセクター担当課長の過剰な所掌範囲(SM Span of control)の適正化など、既に実行段階に移している事案の次のステップとして、幾つかの課題の固まりについては課長・局長達のワーキンググループで分析・提言が進行し、上記Modernization Paperでも着手中の扱いになっている。うち形になってきたものを皆で揉むというのが今回の会議の建付け。

意思決定の在り方

印刷して横に15枚分にもなるプロジェクト特定・承認・実施・完了までの過程は、公式なルール、ガイドライン、ポリシーと非公式な(かつ地域・部局毎に大幅に異なる)業務慣行からなる巨大な意思決定の複合体。これを、プロジェクト内容の技術的品質を妥協することなく、また環境・社会的影響の保護策や汚職防止のための購買基準などの適用を減じる(すなわち世銀を甚大な風評リスクに晒す)ことなしに、大幅に単純化し期間短縮するにはどうしたらよいか? 個別対応でルール改定を積み上げ、全体で負の効果を生み続けたのが世銀の歴史。寧ろ必要なのは行動変化、その引き金となるのは行動指針となる共通概念の確立と浸透であろう−こうしたアプローチから、以下のような概念整理を世銀法務部門が主導し、局長・課長からなるワーキンググループで適応方針を検討してきた。

•「権限」と「義務」と「説明責任」は異なる概念 (しばしば混乱して用いられる)。マネージャーが仕事を部下にアサインすることと権限委譲することも違う(アサインは義務を渡す。権限委譲は権限と義務を渡す。何れも説明責任はマネージャーに残る)。

• 意思決定を止めうる「クリアランス」 (調達基準、環境ルール等への適合/非適合など)と、考慮されるが採用の可否は意志決定者に拠る「アドバイス」 (専門知見に基づく示唆など)は違う役割。クリアランスの役割は法務なりSafeguard Specialistなり特定の職域担当者しか持たない。同じ人がクリアランスとアドバイスを同時に出す場合もあるが峻別すべき。元上司とか声がでかいとかは、この区別には一切関係が無い。

• 例えばSMは個別プロジェクトの準備について i) チームリーダーに「ルールに定められた通りにクリアランスを得、適切な品質が保たれるアドバイスを必要充分に得て提言を纏める」という仕事をアサインし、ii) 品質管理やリスク管理や人材管理という自らの責任と係る権限・予算を一部、主席専門家に権限委譲し、iii) 出てきた提言に対し自らが説明責任を負う形で「同意」(Concurrence: クリアランスともアドバイスとも違う役割)し、CD(意志決定者としてクライアントを代弁する)に渡す。その過程が不要に長大に複雑になることを避けるよう部門内でアサインメントと権限委譲を配置することもSMの義務であり、部門内に必要なスキルを揃えるための人事権と予算を持ち、自部門の属する地域を越えた地域横断・セクター単位で人材育成を図る義務も負う。

皆が思いつくまま放言しただけで何が決まったのか分からないミーティング。誰に何をどう通過させるか不明なまま、思わぬ横槍が入ったといっては調整に浪費されるチームの時間。上司が忙しすぎて得られぬガイダンス。現地視点の検証が後手に回るうち締切は迫る。・・これらは皆、仕事の仕方の定義が上下に一気通貫しない構造に拠る、クライアント価値や開発成果に益さぬどころか害すら為す公共リソースの無駄である。構造は、課長のSpan of controlの適正化を皮切りに課長と局長の職務定義見直し、課長以下諸々の“Shadow Manager”(肩書や役割がまちまちな準管理職)のharmonization、上のような概念整理に沿った意思決定ポイント毎の参加者の限定及び役割の明確化、加えてルール・ガイドラインの一括見直しで「形の上では」直る。また、プロジェクト品質管理における地域局とネットワークの役割など、この意思決定枠組に沿った突っ込んだ提案も出ている。が、新たな仕事の仕方に命を吹き込むのはマネージャーだ。

マネージャーは声を上げて(多少なりとも)適切なspan of controlを勝ち取ったが、それは単に仕事が楽になることを意味しない。目が行き届くようになるはずのスタッフと仕事量に対して、ある部分は部下を信頼して任せ、説明責任を負うために必要な部分は取り戻し、サイロを越えた全社横串の責任も果たして開発目的に貢献してゆく。自身の行動も、おそらく部門内の動き方も変わるこの提言を受け入れるか? 懸念点・要改善点は? これがワーキンググループの提言を受けた経営層から課長・局長全員に投げ掛けられた問いだった。

戦略プロセス

ここ半年間、世銀内の独立評価グループ(IEG)がドラフトを回覧し、MLTに多くの議論の糧を提供してくれた「Matrix At Work 」が完成し今月公開された。世銀のマトリックス組織構造−地域別の6組織x課題別の4組織−が開発効果向上全般に有効に機能してきたのかどうかを診断した、IEGとしても大変野心的な試み。長大なレポートであり、分析・提言は多岐に渡るが、全体的なメッセージは「World Bankは存在しない」。かなり満足に機能する(地域別)Country Bankと、そこそこ機能する(課題別)Global Bankの分断。これ自体は真新しくないものの、このレポートがした仕事は(他のIEGの出版物と同様に)理事会から経営陣に対し、かなり詳細に提言各項目への対応をチェックするプレッシャーをかけたことだ(xxxii-xxxv項にManagement Response:経営陣の返答という節があるが、これが実施状況について改革事務局がMLTと纏めたもの)。

IEGのレポートを契機に本格検討が開始されたものに分野別戦略(SSP: Sector Strategy Paper)の見直しがある。世銀では課題組織が主導して各セクター毎に10年に1度SSPを作成し、各国での政策対話やプロジェクト計画に役立てることになっている。先日岡村さんの記事で紹介のあった社会保障・労働戦略は最も最近発表されたSSP。

「戦略」とは本来行動を決めるものだが、世銀の構造上、SSPが世銀の各国での事業を直接決めることはありえない。各国での事業内容は相手政府がオーナーシップをもち、相手政府と世銀との協議を通じて作る国別支援戦略(CAS: Country Assistance Strategy)で決まるべきこと。そして、CAS及び各地域毎のニーズを見据えて地域別組織が各々作る地域戦略を6冊束ねたものが、世銀全体の事業計画ということになる。

過去の提供者側論理の押し付けへの反省から、国毎の需要が事業(そして予算配分)を主導する方向へ振ったのが1997年のマトリックス組織導入の趣旨。15年経ち、GPG (Global Public Goods: 地球公共財)とよばれる事業分野が急拡大したことで事情は一変した。特に気候変動やガバナンス、ジェンダーなど借入国ニーズと世銀大株主あるいはドナーの意図が異なるアジェンダには、課題別組織が地域横串で取り組む他にない。SSPでは国毎・地域毎・地球規模を含めた情勢分析と世銀全体としての姿勢表明がなされるが、これと国別オペレーションとの裁定の難しさは世銀の組織課題というよりは世界の開発課題の縮図といったほうが適切、というのが個人的な感想ではある。

IEGレポートはSSPの現状につき、i) 10年のサイクルは長すぎて世界の変化に追いつけない、ii) 多くの場合提供側の視点に留まり地域別組織のスタッフに有用でない、iii) 便益に対してCASの数倍という費用は高すぎる、等々の理由から、大幅にスケールダウンして「セクターの現状」を簡潔に述べるコミュニケーション素材に留めるべき、と提言した。これを受けたMLTでは最大のネットワーク組織SDNの担当副総裁を議長に、地域・ネットワーク双方からセクター担当局長、そしてIFCの戦略ヘッドも含めた検討ワーキンググループを結成。これまた議論は紛糾。

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セクターによって状況が本当に異なるのだからもっともな事だった。“No one size fits all”と言えば世銀の大抵の場所で大抵の人が頷く。上の図は最近作成されたSSPが、各々どこまでの内容を含んでいたかを示したもの(括弧内の数字はページ数)。HNP(Health, Nutrition, Population: 医療・栄養・人口)戦略が最も野心的なスコープで、その分200ページと長い。医療だけとっても前回の戦略策定以降にHIV/AIDSが拡大し、ビル・メリンダ・ゲイツ財団やグローバル・ファンドが生まれ、財政から医療施設末端に至るシステム強化アプローチが試行され始めた。各国経験の棚卸と教訓抽出、動向分析と優先課題特定、他セクターとの関連性、他アクターとの関係性、世銀の比較優位・差別化方針と協業方針・・・これらの多くは机上でなく、出張を繰り返しクライアントやパートナーやステークホルダーとの協議を繰り返して練られてゆく(=コストがかかる)。これらが重要でないといえるのか? 有益に活用できていないのは誰の問題か? 過去を吟味するためか、将来方針を定めるためか?プロセスが重要か、成果物が重要か? 幾らなら妥当なのか?

数回のミーティングを経て質問を変えてみる。「One sizeがだめなら、幾つsizeがあればfit allするのか?」議論の流れが変わる。行き着いたのは下のような意思決定ツリーだった。

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外部環境の変化度合いと、内部状況のギャップ度合いに応じてSSPの雛形を3通りに分ける。想定読者と目的、内容の重点、更新頻度、予算も相応に分ける。ネットワーク組織は、知的リーダーとして、経験・知見の地域間の交換役として、または経営陣レポーティングの橋渡しとして、違った役回りで地域組織の役に立つ。ワーキンググループは、IEGへの代替案を提示する形でひとまず収束した。課長・局長達への問いは、「このアプローチは機能するだろうか?」

* * *

1日目午後。参加者は小部屋に分かれ、更に小グループに分かれ時間を区切って各トピックを深掘。各検討タスクフォースに参加してくれていた局長達がファシリテーターとしてテーブルに散る(明らかに場違いに若い自分も混ざって席につき司会を始めるのを見て、初対面の方々はちょっと訝しげな顔)。概ね賛同のテーブルもあり、課題噴出のテーブルもあり。ファシリテーターが皆でフリップチャートに纏めた論点は持ち帰り、次の日配布する1枚ものに。参加者同志は半年振りに各国から集う者同志のネットワーキングと、夕方から合流した副総裁一同と尽きない議論に興じ、夜は更けてゆく。

2日目午前。大部屋に皆が集い、昨日のテーブル議論の振り返り。個別の提案事項の咀嚼が首尾良くすすみ、修正方針も大方出る。午後に3人の専務理事(MDs)を囲んで徹底討議の時間を持つにあたり、そのアジェンダシェイプをする時間。誰かが言った。「セクター別の戦略はよいとして、世銀全体の戦略は?」何人かがぴくりと反応。追加の意見が出て、MDsとの論点は収斂。

2日目午後。おそらくこの規模で起きることは滅多にない、シニアマネジメント・ミドルマネジメント間の深く長い対話が始まった。
次回(後編)に続く

* * *

(閑話休題)

前回斉藤さんの記事 、前々回の甲賀さんの記事と、「次のステップに進むこと」の話が続きました。夏を終えたら、(世銀的にはとてもエキゾチックな)改革仕事も1年。YPPの2年のローテーション終了に合わせ、現場に戻って開発仕事にしっかり励もうか、と思っていた折。経営会議の合間にコーヒーを注ぎに行けば、現ボスのアニキと前ボスの局長が後ろで立ち話。「アイツもう1年キープするから・・・」えっ。振り返ると前ボス「まぁーいつでもいいよ。たまには遊びに来いや」え・・えっ?

posted by 世銀スタッフ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 金平 直人

2012年04月24日

前に進むこと



IFC香港オフィスの斉藤 慶子です。

世銀グループに勤め始めてから早5年が経過するところですが、5年も経つとその先5年のことを考え始めるようになりました。皆さんはこんな風にキャリアを3ヵ年、5ヵ年、10ヵ年とかで区切っていますか?

私は投資銀行で5年超働いたときも、必死に3年間働いて、もう少し続けようと思い、その後5年の区切りが来たときに、仕事の内容も一巡した気がして、日本から一度出ることを思いました。もともと経済・金融政策に興味があったので、ケネディスクールで行政の勉強を、このタイミングでできたことは(下手したら人生で最も!)貴重な経験でした。

その勢いでアメリカの連邦準備銀行でインターンをしたり、世銀で働いたりとしてきました。そして3年前からは、以前に仕事としていた民間投資の仕事に戻って、比較的政策に関わりのある、長期的視野を持って取り掛かれる、インフラ・セクターに従事することになりました。

それまでは7-8年間金融セクターのみにフォーカスしていたので、私にとっては全く新しい世界に飛び込むことが非常に新鮮で、勉強に勢いがつくものでした。

さて、これから先何をしたいかと言うと、やはりしばらくはこの仕事をしたいと思っています。日本を含め、たくさんの国で、最も必要なあるいは効率的に使えるところに、お金が辿り着けていなく、特にインフラにおいて(横領が多い世界さながら)著しく遅れがあると思います。

それをIFC内から取り掛かるのと、民間セクターから携わるのと、はたまた行政側からサポートするのと、どれも重要なことで、どの立場からも仕事ができるような状態に常に自分の準備をしておきたいものです。そのためには、来る2-3年の間で、とにかくインフラ投資プロジェクトをたくさんクローズすることを、目下の目的としています。

ちなみにこういうことを何故こんな大声で言っているかと言うと、一つには甲賀さんが次の仕事に進むことを聞いて嬉しく思えたからです。日本では最近特に、新しく自分ができることにどんどん取り掛かっていく人々の話しを聞きます。これは自分の人生プランに、大きなインスピレーションとなります。

逆にもう一つの理由として、最近たまっているフラストレーションがあります。自分の案件がなかなか進まず、それどころか周りのアジアのインフラ案件がどんどんつぶれていくのを見て、やってられない、と思うことが特に今年は多くあります。

他業界の友人と話す限りではどこも同じなのでしょうが、IFCでは案件のチームやマネジャーによっては、個人的攻撃を含め、案件を進めるのに際して、社内からたくさんの横槍が入ります。まさにキッチンに料理人がたくさんいすぎる、という状態になって、案件はスタックします。

また私のグループでやっていた中国の案件では、昨今新聞を賑わしているスキャンダルに近い人が案件に潜んでいて、それ以上投資を進められなくなりました。またインドネシアの案件では政府の保証が足りない分を、スポンサー・サポートという形で補うと表明され続けていたのに、12ヶ月後にやっぱりやめたと宣言されてしまったりと、特に大きくて時間がかかっていた案件がたくさん潰れています。

そういう案件は我々無しでも勢いでクローズしてしまうスポンサーもいるのでしょうけど、概ね途中で変な方向に行ったとき、赤字を止められなくなる(ストラクチャーがしっかり組まれていないので)ということになるのでしょうか。あるいは風向きに助けられてすいすい上手くいくケースもあるのでしょう。

こういった大型案件以外にも、我々が既に投資したファンドが、General Partners(GP)同士で喧嘩してしまい、メインの投資チームがひどいいじめにあってしまい、ファンドを取りやめる方向に進んでいるものもあります。

これもすごい話しで、自分がファンドのGPでありながら、自らのファンドマネジャーを投資コミュニティー内で中傷したり、コストの補填や投資案件が見つかった際に、我々投資家であるLimited Partner(LP)及びGPに資本投入をするようファンドマネジャーが、大体四半期ごとに呼びかけるものですが、そのGPはわざわざお金を送金するのを遅らせたりと、小学生みたいないじめをしてきました(そうすることで、自分の首を絞めるだけなのですが、完全な素人がお遊び気分でやっているとしか思えません)。

自分の投資案件が次々とこんな状況になったときに、私は昔から尊敬する先生・先輩方の言葉を思い出します。

一つ目は、私のゼミの教授であった竹中平蔵先生が繰り返し唱えてくださった、Alfred Marshall氏の“Cool Head Warm Heart”です。今の私にとっては、自分の案件を、分析・議論の結果進めるべきだと判断しているので、あとは横槍対処のために、感情を無にして、説明し続け(同じことを壊れたレコードのように)、クローズに導くことなのでしょう。

もう一つの言葉は、私が世銀の頃に一緒に働く機会があった、大先輩の遠藤忠さんがおっしゃっていたことで、人間勉強しなくなったら終りだ、と言うことです。これに習い、私も自分が得意と思える新しいことを勉強し続け、どんどんチャレンジするこを忘れないようにしています。今週から新たにテレコムの案件を見始めたので、新しいセクターについて習えるのがとても楽しいです。

苦労した交渉の末に辿りつく、次の投資契約書のサイニングを、早く見たいものです!

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posted by 世銀スタッフ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 斉藤 慶子

2012年04月17日

新総裁選出と最後のご挨拶



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春季会合向けに世銀本部に掲げられた横断幕(著者撮影)

世銀およびIMFが合同で開催する春季会合(Spring Meetings)が4月18日から21日にかけて開催されるため、世銀本店の建物も会合に合わせた機材や展示物が設置され賑やかになってきました。

日本のメディアでも取り上げられていましたが、この春季会合に先立ち、第12代世銀総裁として米国推薦のジム・キム・ダートマス大学学長が選出されました。キム氏は韓国で生まれたアメリカ人で国際保健分野の専門家で、長年、結核やHIV/AIDS問題などに取り組んできた方です。

今回の総裁選出で特徴的だったのは、世銀史上初めて米国の推薦者が他の候補からの挑戦を受けるという形になった点です。対立候補の一人は、ナイジェリアの財務大臣であるンゴジ氏。世銀にヤング・プロフェッショナルとして入行し、専務理事(Managing Director)まで務めた人物です。また、もう一人はコロンビアの財務大臣であるオカンポ氏。同氏は最終選考の前にレースから退き、ンゴジ氏の支持に回りました。

世銀の株式の大きなシェアを締める欧州各国の支持を取り付けたキム氏の勝利は最終選考前から決まっていました。米国は、他にも日本、カナダ、メキシコ、ロシア、インド、中国からも手堅く支持を纏めました。

下馬評通りの結果だったとはいえ、1944年の発足以来、はじめて米国籍以外の対立候補が擁立されたという事実は、新興国と先進国の発言力の変化を物語っているといえます。今回が先例となり、今後の総裁選出にあたっては、途上国から複数の候補者が擁立され、米国の候補者を含めて選挙が行われるということが常態化されるでしょう。

「米国が世銀総裁ポストを、欧州出身者がIMF専務理事ポストを占める」という不文律は当面は継続されるかもしれませんが、国際的なパワーバランスが大きく変わりつつある現在、世銀のガバナンスのあり方もさらなる変化が求められているということだと思います。その意味で、より大きな発言権を求める新興国の声にキム新総裁がどう応え、そしてこの巨大な官僚組織をどう変革していくのか、大いに注目したいと思います。

***

さて、今回が世銀プロ・ブログへの最後の投稿なります。私事で恐縮ですが、本年4月30日を以って世界銀行を退職することにしたためです。退職後は再度米国の大学院で学び直した後、帰国して日本の将来に貢献する仕事をしたいと考えております。

もともと、いつかは帰国して貢献したいという思いはあったのですが、入行当初は世銀でしっかり実績を積んでから帰国することをつもりでおりました。しかし、昨年の東日本大震災を目の当たりにし、途上国よりも自分のルーツである日本に貢献したいという思いが強くなったため、自分の気持ちに正直に、予定より早く前に進むことにいたしました。

世銀プロの活動を通じ、世界銀行にご関心をお持ちの日本の皆さまに世銀職員のキャリアパスや仕事内容を紹介することは、(業務時間外の課外活動ではありましたが)非常にやりがいのある仕事でした。また、先輩・同僚職員のインタビューやブログを通じて自分自身多くを学ぶことができました。

世銀プロ・インタビューにご登場いただいた皆さま、ブロガーの皆さん、アドバイザーを勤めてくださった西尾さん、森さん、世銀プロ・タスクチームならびにボランティア・メンバー各位、そして何よりも世銀プロをご愛読いただいた皆さまに対し、心から御礼申し上げます。

これから立場は変わりますが、「貧困のない世界」という国際社会共通のミッションを達成するために世界銀行が果たすべき役割はまだまだ大きいと信じています。ですので、貧困撲滅に向けた世銀の新たな取り組みには注目し続けたいと思いますし、一日本人として応援して行きたいと思っています。

それでは、いつの日か日本で皆さまにお目にかかれることを心より楽しみにしております。

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世銀本部入口に掲げられたミッション・ステートメント(著者撮影)


posted by 世銀スタッフ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 甲賀 大吾

2012年04月10日

The World Bank Social Protection & Labor Strategy 2012-2022



こんにちは。フィリピン事務所の岡村優子です。

日本では桜満開の今日この頃ですが、3月から5月が夏のフィリピンのは夏真っ盛り。学校も夏休み中で(フィリピンの新学期は6月から始まり、学年は3月に終わります。)、毎日強い日差しと30度を越える暑い毎日が続いています。

さて、今日はこれから10年に渡る世界銀行の社会保障・労働戦略について簡単にご紹介したいと思います。この戦略は、人間開発ネットワークと呼ばれる特定の地域に属さず、世界中の成功例や知識・経験の集約をリードする役割を持つ部署によってとりまとめられたものです。

様々な危機や災害による被害が拡大する今日において、人々や社会が直面する危険性や不安定性にいかに対応して、またそれらからの被害から守ることできるのか−そんな環境下で、弾性・平等・機会を促進するのに欠かせない手段として社会保障・労働分野におけるシステム・政策・プログラムの重要性は高まってきています。

この分野では、Prevention, Protection, and Promotion (3P) と呼ばれるフレームワークがありますが、それは弾性・平等・機会というキーワードを説明するのにも役立つものです。まず、弾性とは様々なショックにより生活状態が著しく低下することを防ぐことで、失業保険や年金、健康保険などがあげられます。職を失ったり病気になった際にも、これらの保険がショックの吸収剤となっているのです。そして平等という観点からは、人々が困窮状態や不可逆である健康や教育に影響する損失から守るために、貧しい人を対象にした資金・物資などのセーフティーネットがあげられます。

子供が学校や保健センターに行くことを条件に、貧しい家庭に定額の金銭援助を行うCondiitonal Cash Transferは正にそのこの例です。そして、より良い健康状態や教育を促進すること・延いては良い職業につくことができるように人々を助ける機会が必要です。例えば、労働市場において、失業保険という仕組みによって人々が窮地に陥るのを防ぐ同時に、人々のスキルや生産性を促進して失業しにくい人材を育てていくことも非常に重要です。このように、3つのPが融合しあってはじめて、より良い社会保障・労働政策・プログラムが成立しています。

現在の世界の社会保障・労働政策を見渡すと、様々なプログラムが細分化されていたり、財政難に直面していたり、人口統計学的な傾向、非正規セクターをいかに含めるか、ショックや危機にどのように対応するかなどといった、今後の挑戦ともいえる課題が山積しています。

そんな状況下で、社会保障・労働分野における今後の10年の方向性を示すために、去年の年明けから始まった世界各国における第二段階のコンサルテーションを経て、1年以上かけて完成させられた本戦略が、今月開催されるIMF・世銀春期会合(Spring Meetings)にて最終的にリリースされる予定です。

ここフィリピンでも2度のコンサルテーションが行われました。第1回目は昨年の3月に幅広い大多数を対象としたコンセプトペーパーのプレゼンテーションが行われ、今年に入ってからの第2回目には、本戦略の草案を基に大臣・NGOの代表と共により深い議論を行う機会が設けられました。こうしてコンサルテーションフォーラムは世界中の64箇所で行われ、政府・NGO・学会・民間セクターや援助機関を含む約2000人の方の参加・多くの方の意見が終結されました。

社会保障や労働市場の国際比較をした際に、各国に共通する多くのこともあれば、地域や経済成長のレベルや特有の文化や社会背景から各国により異なることも多くあります。様々なことを考慮しながら、各国のそれぞれの状況にあった仕組みが今後更に築かれていくことを願うばかりです。



posted by 世銀スタッフ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 岡村 優子

2012年04月03日

軍改革と開発



今日は少し固い話を。

軍、警察、司法などの治安関連部門改革。これは開発のプロセスに入るのか?答えは“Yes”である。90年代までは、特に軍改革は内政問題、政治プロセスと位置づけられ、開発プロセスとは切り離されて考えられてきた。それが2000年代に入り、国家の安全保障、すなわち平和と安定が人間の安全保障や貧困削減に如何に大きく影響するか、その関連性が議論され始め、国連や世銀を中心に盛んに分析されてきた。

「安定なくして開発なし」

開発の前提としての治安確保の重要性、そしてそれを担う治安部門が機能していることの必要性が叫ばれ、治安部門改革(Security Sector Reform: SSR)が開発のプロセスの一環として明確に位置づけられた。2005年にはOECDが治安部門改革に関するガイドラインを策定。そのニーズの40%は紛争国・紛争集結国が集中し、情勢の不安定なアフリカにあると言われている。

**************

西アフリカにあるギニア共和国。(高校の地理でも出てきますが)アルミニウムの原料となるボーキサイト埋蔵量はオーストラリアに次いで世界第二位、他にも鉄鉱石、石油、金、ダイヤモンドなど豊富な天然資源を誇る資源国。その昔の社会主義体制、長く続いた一党独裁軍事体制の影を引きずる情勢が不安定な国で、資源+脆弱国の典型例。

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Photo credit: http://www.haimenonline.com

そのギニアで、選挙を経て2011年“民主的政権”が誕生した。しかし行財政は完全に軍事化されたままであり、行政の要職にも軍出身、関係者が目立つ。ここからいかに透明性のある資源管理、軍・行政改革、財政再建を図っていくか。一見地味な国だが最近アフリカ局の中で注目されている国のひとつだ。

軍事独裁政権下で軍部は肥大化し、2010年の国防予算は支出全体の33%を占める。これが国際比較において多いか少ないかという議論は実はあまり意味をなさない。むしろこれが国防の観点から現状本当に必要な予算であるか、それが他の緊急優先セクターへの予算配分や公共投資を圧迫していないか、という点からの検証が必要である。さらに資源利権と軍部の癒着、不透明な軍事関連支出、肥大化し続けた体制などの問題は、いわば今まで手をつけられたことのない完全なブラックボックスである。政治的に非常に機微な問題であり、大統領以下、政治リーダーたちの強力な政治的コミットメントがない限り、到底先のない話である。

新大統領はその強力なリーダーシップでもって軍改革を断行。新国防政策を策定し、首都の非軍事化を推進、退役年齢に達した4200人もの軍人を一気に退役させ、さらに生体認証センサスを実施し、人事の一元管理制度構築をわずか一年でやってのけた。その結果、1年足らずで、支出を予算全体の14%まで削減するという成果をたたき出した。

しかし課題は多い。この改革プロセスをいかに持続していくか。特に財政管理の透明化、健全化をいかに図っていくか。我々は、財務省も把握し切れていない国防省の財政管理、つまり予算策定、その執行、支出管理、透明性のある軍事調達プロセスの確保、そのモニタリングのための支援に遂に乗り出すことになった。

これは世銀が伝統的に行ってきたセクターでは決してない。しかし2011年の世界開発報告書「紛争、安全保障と開発」発表以降、世銀として、我々の比較優位を生かしつついかに貢献していくかは内部で議論され続けてきた。2011年、ケニアのナイロビには、紛争と開発問題を扱い、オペレーションの中核機能を担うハブとなるセンター(Global Center for Conflict, Justice, and Development)も新たに設立された。ギニアでのこのリスクの高いオペレーションをどううまく乗り切れるか、その責任と期待は大きい。

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軍人退役オペレーションに関する啓発ポスター(UNDP 支援)
「退役は罰ではなく権利である」

posted by 世銀スタッフ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 長木 志帆

2012年03月27日

西アフリカの同僚たち


IFCダカール事務所の小辻洋介です。

その昔武田信玄が「人は城、人は石垣、人は堀」といいましたが、サービス業である金融機関の一番大事な資産は、いうまでもなく人です。強力なスタッフなくして、開発効果の高い投資案件を発掘しエクセキュートすることはできません。

また、世銀など国際機関で働きたいと思って、このブログを読んでくださっている方々は、こういう職場に来るとどんな人がいるんだろう、という興味もお持ちだろうと思います。

ということで、今日は僕が普段どんなメンバーと働いているのか、チーム紹介をしたいと思います。みんなすごく仲がよくて、西アフリカ風大家族の一員になった感じです。

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トップを飾るのは、ナイジェリア人の「おかん」。マリの飲料会社への融資案件で一緒に働きました。

外交官の娘さんとして育ち、子供の頃は英語圏・仏語圏アフリカを転々としたらしく、フランス語も堪能。アメリカのIVYリーグの大学を出たあと、某大手銀行で石油などの天然資源系のプロジェクトファイナンスを担当。シンガポールにも駐在したことがあり、アジア通でもあります。好きな日本食は?と聞くと、「カツカレー」と即答されます。

背が高くて、貫禄と頼りがいがあるので、僕と妻は勝手に「おかん」と呼んでいます。ディールの交渉力も半端なく、真剣な交渉の途中に程よいアフリカン・ジョークを交えてクライアントをほぐしながら、条件を通していく突破力はすごいです。ディール以外にも、ある同僚が南アフリカで誘拐されたとき、「おかん」が犯人と電話交渉をし、無事同僚を救出したこともあります。

「おかん」は、前職の証券会社・今の会社を通じて、僕にとってのベスト上司トップ3に入る人で、アフリカ・ビジネスについて多くのことを学びました。「アフリカのディールでは、動産担保を取ったらあかん。会社が傾いた瞬間、経営者はその動産をマリ北部の砂漠とかに隠してしまうから。担保は土地・建物にこだわりなさい」などの、「おかんの金言」は数々あります。「おかん」は去年から、ダカール事務所を離れ、ワシントンの本部でIFCのCEOの補佐をしています。

「おかん」キャラは、もう一人いて、僕が「コートジボワールのおかん」と呼んでいるおばちゃんがいます。彼女はハイチ出身なので、フランス語はぺらぺら。IFCの中南米のオフィスや南アフリカ事務所に勤務したあと、コートジボワールの事務所長として赴任してきました。娘さんと息子さんを、女手ひとつで育てたというパワフルな人。声の大きい人に悪い人はいないと言いますが、裏表のない正論を大声でずけずけという姿にはいつも溜飲が下がります。「コートジのおかん」も強靭な交渉力を誇るので、交渉が手詰まりになると、必ず登場してもらうようにしています。「コートジのおかん」は日本にすごい行きたがっているので、夏の帰国の際に「おかん」のご一家も一緒に連れて行く予定です。

カメルーン人のタンカムちゃん

ポジションは、コートジボワール事務所のアナリストで、今やっている畜産案件で一緒に働いています。

IFCの職員は、欧米の大学院で修士を取って入ってくる人が多いですが、タンカムちゃんは例外で、ガーナの最高学府であるガーナ大学を優秀な成績で卒業し、学部新卒でIFCに入ってきました。すごい努力家で、細かい作業を任せても信頼できるアウトプットが出てきます。「私がパーティーに行っても行かなくても、パーティーの盛り上がりには影響ありませんから。」とさらっと言ってのける西アフリカでは珍しい自虐かつ地味キャラ。その性格美人っぷりのおかげでクライアントにとても信頼されていて、今のプロジェクトには欠かせないキャラです。最近はプロジェクトへのオーナーシップ(自分が引っ張ってるんだという意識)が強くなってきて、「こういう風に交渉を進めましょう」とか「こういう分析をやったらどうでしょうか」とかいい提案が出てくるようになりました。

「コートジのおかん」はそんな性格美人なタンカムちゃんをはやく嫁に出さんといかん、と思っているらしく、金曜の夕方にタンカムちゃんに仕事を投げると「そんなことしたら、タンカムちゃんがクラブに行けなくなるでしょ!」と「おかん」のお叱りをうけます。僕もタンカムちゃんに日本の「婚活」という言葉を教えてあげました(注:アメリカだとこれは確実にセクハラになりますが、西アフリカの文化ではOKです)。

いつか欧米の一流大学院に行って勉強するのが彼女の夢らしく、なんとかかなえてほしいと思います。

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セネガル人のフジャ

最近ダカール事務所に入ってきたアナリスト。フランスの大学院を出た後、パリの銀行で働いていました。 

地味キャラなタンカムちゃんに比べて、フジャは華やかキャラ。お母さんがセネガルの伝統の綿織物工芸を守っている著名デザイナーということもあり(アフリカの布といえばカラフルなプリント地だが、実は、植民地時代以前はマリやブルキナファソの天然綿を使ったモノトーンの手織りの布が伝統工芸としてあり、ところどころにセネガルの伝統の文様などが控えめにあしらわれた日本の絣(かすり)を思わせるシンプルさで、千年以上続く伝統に裏打ちされた美しさに圧倒されます。フジャのお母さんはエルメスなどと組んでプロジェクトもやっている)、毎日とてもセンスのいい服を着て出社してきます。

「今のヨーロッパはユーロ危機で先行きも暗いし、留学生への就職間口も狭くなっているし、そんなことならこれから経済的に伸びしろのあるアフリカ大陸に戻ってきて国のために働きたい」と語るフジャ。

こういう若いスタッフの話を聞くと、アフリカの潮目が変わってきていることを感じます。

アメリカの大学院時代に出会った僕と同年代のアフリカ人たちは、アフリカに戻りたいと口ではいいながらも実際先進国を離れられないか、先進国のいい待遇を捨てて義務感や気負いみたいなものを背負ってアフリカに戻ってきている感じでしたが、ひとまわり年下の人たち(20代の人たち)は、もっと自然体でアフリカで働きたいと思っている。もちろん、今のユーロ危機が彼らの背中をアフリカに向けて押していることは間違いないと思いますが。

でも、このスタンスの違いはかなり大きいと思います。今の20代のような自然体なスタンスのほうが長続きすると思うし、彼らが活躍をする年代になれば、更に若い人たちが自然についてくるんじゃないかと思います。そういうインパクトが田舎の村々に届くのは大分先じゃないかと思いますが、少なくとも経済の核になる大企業は彼らの力でもっと競争力を持ちえるんじゃないかと思うし、アフリカ経済のポテンシャルを阻んでいる腐敗や旧習を無理のない形で変えていけるのは、こういう若者の数がクリティカル・マスに達したときなんじゃないかと思います。

モロッコ人のカバジさん

IFCに新卒で入り、はや12年目というベテラン。1年ちょっと前にワシントン本社からダカール事務所に移ってきました。西アフリカの大きなビジネスはレバノン系のオーナー会社が多く(レバノン人は、アジアでいう華僑のような強いプレゼンスを持っています)、モロッコ人のカバジさんが来てからレバノン系のビジネスへの投資案件が多く取れるようになり、中東・北アフリカのアラブ系のつながりって強いんだなあ、と感心したものです(本人にそんなことを言ったら、「そうじゃなくて、俺の営業能力の高さのおかげだろう」と叱られそうですが)。

IFCのスタッフは、政治的に注意深い(英語でいうと「Politically correct」)動きをする人が多いですが、カバジさんは正しいと思うことをズバッとと言ってのける真っ直ぐなキャラで、僕はとても尊敬しています。ちょっと前に、カバジさんが、ビジネスはすごくうまくいっているのだが、税金逃れのために所得の一部を隠す、ということをやっている会社に投資をしようと試みたことがありました。

「脱税」というと日本では重い響きですが、西アフリカではとてもあることで、脱税がメインの目的ではなくて、最大の目的は政府の干渉を受けないようにする、ということにあります。会社が儲かっていると目立つわけで、そうすると、政府に賄賂を要求されることがあります。賄賂を断ると、その会社は政府にいじめられ、なんらかの容疑をでっちあげられて捜査を受けたり、ひどい場合は経営者が牢獄にぶちこまれたりします(極端な話のようですが、僕はそういう例を何社か見たことがあります)。

この投資候補先に関しては、IFCの経営陣はそんな風評リスクのある会社に投資できるかとはねつけたのですが、カバジさんは「申告をちゃんとしていないからそもそも関わらない、というのではなく、どういう風に対処するのが一番効果的なのか一緒に考えるのが我々の役割だ。この会社は、世銀グループであるIFCが投資をしたら政府に干渉されるリスクが減るので、所得を全額申告すると約束しているし、transparencyを増すために大手の会計事務所の監査を受けてもらうようにする」と説明をして真向勝負をしました。結果的に案件は通りませんでしたが、僕は彼の言っていることはもっともだと思うし、こういう正論を通そうという硬骨漢が職場にいるのは素晴らしいことだと思います。

ガーナ人のサム

サムもIFCで10年以上のベテラン。ガーナ大学の工学部を出たあと、やし油から石鹸を作る工場でエンジニアとして働いて、何を思ったかバンカーに転身し、西アフリカ屈指の銀行であるエコ・バンクで勤務、そのあとIFCに転職しました。もともと牧師になりたいと思っていたんだと語るだけあって、どんなことがあっても怒りを表に出さない静かなキャラ。どんな難しいプロジェクトでも根気よく時間をかけてやるので、サムにかかると、いつの間にかプロジェクトが通っていた、という現象が多々あります。

短期金融系のプロジェクトに強く、貿易金融などのプロジェクトを手掛けることが多いです。
サムは夜中まで仕事をしていることが多く、夜10時以降に話かけると、彼のうちに秘めた熱い想いを聞くことができます。サムは、ずっと自分の国の中で教育を受けてきたので、自分が通った学校の同級生たちが政府の要職についているそうですが、かつては国をよくしようと語り合った仲間たちが、志を失って政府になんの改善も起こらないことが本当に哀しいのだそうです。

サムがすごいのは、IFCで働きながら、通信制の大学院プログラムをこなし、最近博士号を取ったこと。テーマは、「ガーナにおける中小企業の成功要因と失敗要因」。ガーナのアントレプレナー数百人にインタビューをして、業績のよしあしと、アントレプレナーの起業にいたるモチベーションの相関を分析した力作。こういう研究を通じて、ガーナの起業家のサクセス・レートが上がればいい、とのこと。立派です。

上記の同僚以外にも素晴らしい/面白い人たちはたくさんいて(リベリアの400メートルのチャンピオンで世界記録保持者のマイケル・ジョンソンと全米選手権の決勝で対決した人とか、神がかったスピーチ能力を持ち思いが熱くなりすぎると「フオー」とか「ブベー」みたいな呪術的な音で表現して、でもそれがなぜかクライアントにも社内にもよく伝わってしまう不思議なジンバブエ人とか)、書き尽くすことはできません。

いろいろなバックグラウントを持った仲間たちが、それぞれ強い真っ直ぐな思いを持って仕事をしている、こういう雰囲気が僕をダカール事務所にとどめる大きな力になっているのだと思います。

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写真は、「おかん」の送別会のダンスパーティー。特定のコートジボワール音楽がかかると、みんな練習もしてないのに、ぴったりと息の合ったダンスをする。

***

さて、この原稿を書いている3月25日(日曜日)にセネガル大統領選決選投票が行われ、野党候補のマッキー・サル氏の勝利が確定し、現職のワッド大統領が祝福のメッセージを送りました。これをもって過去9ヶ月にわたる政治的混乱に終止符が打たれそうです。ここ1年ちょっとでコートジボワール内戦・ニジェールクーデター・ブルキナファソ危機・マリクーデターと残念な出来事が続いた中、独立以来の平和と民主主義の伝統を体を張って守ったセネガル国民の底力に心から敬意を表すると同時に、選挙前の暴動で亡くなった6名の方のご冥福をお祈りします。

マッキー氏の勝利が確定した日曜夜に、我が家の近所で小さな打ち上げ花火が打ちあがりました。日本の中学生が遊びで打つようなその小さく質素な打ち上げ花火は、僕には、大切なものを守りきったセネガル人の誇りと、勇気と、希望を示す輝かしい花火に見えました。

posted by 世銀スタッフ at 06:34 | Comment(0) | TrackBack(0) | 小辻 洋介

2012年03月20日

舞い戻ってきたベトナム



みなさま、こんにちは。木村薫です。

とあるIDAプロジェクトで、この2週間ベトナムのハノイに滞在していました。

国際開発を志望される方、そしてこの業界で働く私たちにはきっと誰にでも、そのきっかけになるような特定の国や地域(例えば、自分が訪れたことのある国、何か記憶に残るような事件が起こった国とか)があると思うのですが、私にとっては大学生の時に訪れたベトナムこそが今の仕事に興味を持つきっかけになった国なのです。

早いもので、初めて訪れたときからすでに15年以上経過し、前回訪問したときから4−5年経ったのですが、ハノイの街も人々も経済成長の勢いを感じさせる変化を遂げていました。街のいたるところに大型ビルの建設現場が林立し、新しいレストランやカフェができ、外国人だけではなくローカルの人もそういったところで外食を楽しむようになっていて、さながら日本のおしゃれカフェに集まる若者のようです。

ハノイにいる人の格好も格段におしゃれになっていて、お化粧してる人も増えたし、カラーリングやパーマをかけている女の子たちもけっこういました。しかし、街の変化で一番衝撃を受けたのは、横断歩道と歩行者用の信号の導入です。バイク天国のようなベトナムで毎回一番大変なのは道路を渡ることなのですが、信号無視して突っ込んでくるバイクもまだいますが、信号のおかげで大分自信を持って道路が渡れるようになりました。

さて、肝心のプロジェクトのほうですが、開始からかなりの年月が経っているものなのですが、残念ながら厳しい状況が続いています。大学院で学んだプロジェクトマネジメントのケーススタディのように客観的に分析してダメなところを徹底的に洗い出し、改善を図れればいいのだろうけど、実際にはその国や組織の長い歴史と文化があり、自分達も含め、それぞれのやり方、立場があるなかで、物事の流れを画期的に変えるということは本当に難しいと痛感しています。とはいえ、私たちも片足を突っ込んでしまった以上は簡単にあきらめられないですからねぇ。

今回は、ミッションの一日一日が山積みの問題との戦いという感じで、毎日ちょっとずつ問題の山を少しづつ崩しつつ、先に進んでいけそうかなぁって方向に軌道修正していくのに明け暮れた毎日でした。新しいメンバーで初めてのミッションで、やはり初めはどんな感じになるのか緊張していましたが、どんなに大変なときにもユーモアがある人々でなんとか乗り切りました。これからの3ヶ月、そして6ヶ月が本当に正念場なのですが、なんとか明るい方向に進むことを願っています。

15年前には好奇心だけでベトナム縦断したバッグパッカーでしたが、今は政府の人を相手に仕事をしているって不思議な感じですが、どんなに街や人は変わっても、ハノイの中心にあるホアムキエム湖の風景だけは変わっていなくて、ほっとしたと同時に、私がこの業界を志す初心を思い出し、身が引き締まりました。

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posted by 世銀スタッフ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 木村 薫

2012年03月13日

世銀改革−部門縮小編



「Have you seen “that”?」
「Can you send me “that”?」

良い資料は旅をする。世銀に来る前の仕事で体に染み付いた、組織力学が変化の側に振れる兆しだった。文書回覧となればいきなり100ページのドラフトレポートを添付して、フィードバックといえば学術論文みたいにピアレビュー・コメントを交わしあう文化の世銀では、5枚に纏まったスライドは殊更よく旅をした。ちなみに変化で失うものが多い人は、これを「数字の一人あるき」と呼ぶ。

課長1人あたりの部下の数が異常に多い「Span of Control問題」。課長アンケート結果と関連データは「今すぐ何とかしないと本当にヤバイ」メッセージを醸し出していた。世銀内のIEG(独立評価グループ)が四半期毎に出す総括評価は、融資先のプロジェクト実施状況が全体として(そして一部地域・一部セクターで特に)じりじり悪化している様を示している。世銀内の予算配分の推移、人事が定期的に実施する職員意識調査、課長毎の所掌範囲と仕事の自己評価、すべてのバラツキがプロジェクト品質の傾向と一致している。「部下100人が25カ国に分布。顔と名前がまだ一致しない」「毎週届く審査資料が数百ページ。週末含めて毎日18時間働いている。正直手が回らない」「人事は尽くす。気懸かりを挙げればきりが無い」「ただ、大惨事に見舞われないことを祈るのみ」・・・課長の悲痛なコメントが資料を彩る。

では実際のところどうするか? 課長ワーキンググループでの議論は紛糾した。問題が議論され始めてから2-3年間、事態が悪化しながらも対処がなされなかったのには理由がある。“No one size fits all”– アフリカと欧州では借入国政府の行政能力も、応じる世銀のサービス提供形態も異なる。本部に近いラテンアメリカと地球の裏側のアジアとで、職員や課長の本部・現地比率は全く異なる。マクロ経済政策やインフラとコミュニティ開発や産業競争力政策では、分野毎のプロジェクト数も、一件当たりの仕事量・期間も異なる。

結果、世銀の組織構造は地域や分野毎に極めてばらつきが大きい。例えば地域によっては独立した部門がみている水資源を、アフリカ局ではワシントンにいる農村開発・灌漑、環境・災害復興、都市開発・上下水衛生の担当課長3人が分担して所掌。一方東アジア局では北京、ジャカルタ、バンコク、マニラにいる各インフラ課長が担当国分を所掌、といった具合。課長代理を置いて権限委譲をするのがよいか、部門を分割するのがよいか?分割するなら担当国別か、課題分野別か?Span of Controlに全社的な上限を設けるのなら、課長一人あたり職人何人までが適切か?いやSpanは人数で計るのか、プロジェクト数か、それとも融資金額か?・・・どの問いにも、誰もが納得する答えはない。

誰かが言った。“Elephant in this room”−見えない巨象が部屋にいる−課長の所掌範囲の問題は氷山の一角。課長とその上にいる局長の役割分担。課長以下、諸々いる準管理職の職務範囲。権限委譲に明確で一貫した方針がない中で不要に階層が増えた結果、課長および職員の貴重な時間を喰い続ける煩雑な内部承認手続の類。仕事は増える中で削られ続ける管理予算。地域・分野横串で課題解決するための副総裁より上での推進力不足。我々は犠牲者に甘んじ文句を言い続けるのか、それとも在るべき姿にむけて声を上げ頭を捻るのか。

アネキがいなし、アニキが吼える。「経営陣は我々に提言を委ねたのだ。」課長達のスイッチが入った。各地域の局長達とのミーティング。また紛糾、半ば喧嘩。提言内容が締まってゆく。MLTを取り纏める副総裁とのミーティング。一定度の指針が示される。専務理事とのミーティング。本件は真っ先に解決すると約束。年初。課長グループからの提言に基づき専務理事から全社にアナウンス。各地域局が新たな組織構成の細部を詰める。100人の課長をこの先半年で120人超まで増やすことに。CFOが予算を弾く。改革事務局で地域・分野横串の課長雇用手順を纏め、関連諸課題の検討体制を作る。

専務理事は合わせ球をも用意していた。その1。定年退職を迎えた世銀職員を短期コンサルタントとして雇用する前に、1年間のクーリングオフ期間を義務付ける。これは大きい。定年前のシニア職員が自分の仕事を抱え込むインセンティブを崩し、若手育成と引継ぎを課長達の仕事に明確に位置づけた。

その2。手続きの簡素化検討に本腰を入れる。手始めに、世銀プロジェクトの最初から最後まで(案件発掘から評価完了まで)の手続きを全部洗い出して図表化するよう指示。この誰も見たことのない分析は皆の度肝を抜いた。一連の手続きは紙1枚に到底収まらず、15枚に印刷して横に繋げて始めて見られる格好になった(この図表もこれまたよく旅をした)。「なぜ20も意思決定ポイントがあるのか。identificationからcompletionまで、5回しかないはずではないか?」「引退するシニアを手放せないのは貴重な知識を失わないためというが、その知識のうちどれだけが世銀の中でだけ重宝される手続き知識で、どれだけがクライアントが求める政策知識・技術知識なのか?」「意思決定のどの過程に、誰がどのような責任権限で関与することが妥当か。これは課長と局長の所掌範囲の見直しにどう反映すべきか?」・・・内部改革の題目は尽きることがない。

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「課長、最近、象さんを見ましたか。」
Photo credit: David Blackwell

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現世銀総裁のゼーリック氏は先日、今年夏以降に新たな総裁に後を譲ることを表明し、あわせて「Why We Still Need the World Bank(なぜまだ世界銀行は必要か)」と題した論文をForeign Affairs誌に寄稿した。ここで議論されているのは新たな情勢−欧州の金融危機や紛争・脆弱国の状況、新興国への本格的な経済成長の重心移動、中東に端を発するソーシャルメディア等を介した新たな市民社会と政府の関係、相次ぐ甚大な自然災害が示唆する“Resilience”の必要性など−を目の当たりにした世界が今後必要とする多国間協調の枠組と、その中で世銀が果たそうとする新たな役割だ。

彼のこうした観察と戦略は、次期総裁がリードをとり、各国株主政府との対話を通じて変更・修正が加わりながら今後の世銀の方針に適宜反映されてゆくことになると思われる。こうした包括的な世銀の対外戦略(すなわち、信託を受けた株主各国国民の血税を世界のためにどう使ってゆくか)と比べれば現在進行中の改革はどれも瑣末な内部調整にすぎないが、如何なる対外施策を実行するのであれ必要な共通基盤を、新たな総裁を迎える前に急ピッチで整えているともいえる。他方、新たな時代に適応する共通認識の醸成(新総裁ブリーフィングの準備)は並行して各所で進んでもいる。(次回:「世銀の比較優位」に続く)

posted by 世銀スタッフ at 00:00 | Comment(0) | TrackBack(0) | 金平 直人
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