(筆者撮影)
上の写真は6月末から7月頭にかけて出張したガイアナ共和国で撮影した風景です。何に見えますか?壮大な渓谷の下に広がる美しい湖、あるいは入り江といった趣ですよね。
実はこれ、アルミニウムの原料であるボーキサイトの露天掘りの跡地の風景です。ボーキサイトはガイアナの主要貿易品目のうちのひとつだとか。
渓谷に見える部分は全て採掘のために削り取られた跡。湖か入り江のように見えるのは、この場所が海から非常に近く海抜がほぼゼロメートルであることから、浅い帯水層が採掘により地表に出て大きな水溜りを形成しているようです。
この採掘現場では、採掘跡にこうした大きな水溜りがいくつもありました。上の写真ではあまり分かりませんが、場所によってはコバルトブルー色の絵の具を溶かしたような水溜りもあり、何らかの鉱物が溶け出している様子。この水が下流に流れ、魚や人体への影響はないのだろうかと心配になります。
しかも、この採掘現場、かつては熱帯雨林で覆われていたそうです。下の写真に写っている砂地と森の境が採掘現場の境界です。採掘現場の向こうには森が広がっていました。
(筆者撮影)
ガイアナ共和国の首都ジョージタウン周辺の熱帯雨林は、痩せた砂地の上に僅かに堆積した表土に張り付いているような格好なので、この採掘現場のように一切の植生、表土を削り取って放置したままでは、たとえ降水量が多いといっても、自然の力で元通りの植生が回復するまでには相当な年月を要するでしょう(この現場の埋め戻しや再植林の予定の有無については不明)。
鉱業に携わっている方々からすれば当たり前の景色なのかもしれませんが、鉱物資源の露天掘りの現場を訪ねたのは人生でこれが初めてだったので、「死の世界」とも言えるこの光景には衝撃を覚えました。
この採掘現場への訪問は、森林炭素パートナーシップ基金(Forest Carbon Partnership Facility: FCPF)の第6回参加者会合を主催したガイアナ政府が企画した視察ツアープログラムの一環でした。FCPFが、森林減少に起因する温室効果ガスの削減、いわゆるReduction of Emission from Deforestation and Degradation plus (REDD-plus)を目的とした基金であることは過去のエントリーで述べました。
本会合の主催国であるガイアナ共和国も、FCPFに参加している37もの途上国のひとつとして、REDD-plusの自国での推進を目的とした戦略・制度整備、関係機関・関係者の能力開発のための資金をFCPFから受けるべく、計画書の策定に取組んでいる最中です。そんなガイアナが、「森林保全」に関する会合の視察プログラムで、自国の「森林伐採」の様子を各国の代表に何故わざわざ見せるのでしょう。
この視察に込められた同国政府のメッセージは極めて分かりやすいもの。要するに、「REDD-plusを実施しなければ、鉱物資源開発のために今後も森林は犠牲になり続けるだろう。だから早く我々に資金を提供してほしい」ということです。
ただ、REDD-plusの戦略や制度的枠組みができ、関係機関に能力が備われば直ちに森林保全されるかというと、そう単純な話でもありません。
REDD-plusは、未然に伐採を防いだ森林に含まれる炭素の量を排出削減量(ER)としてカウントし、こうした活動への出資者(先進国政府・企業等)からERの対価として活動の実施主体へお金が流れることになります。つまり、森林が固定している炭素をお金に換算して森林の経済的価値を付与することで、保全のインセンティブを向上させるわけです。
ここで、ガイアナの熱帯雨林と鉱物採掘の例において熱帯雨林が保全されるためには、
熱帯雨林が固定する炭素の価値>熱帯雨林の下に眠る鉱物の価値
という関係が成立する必要があるということになります(注:議論の単純化のため、ここでは熱帯雨林が持つ炭素固定以外の生態系サービスの価値や、木材の価値、他の土地利用方法が生み出す経済的価値は無視しています)。
当然ながら、森林炭素の価格が適切に設定され、こうした関係が現実に成立することで多くの途上国で森林保全が進むことを誰もが望むと思います。しかし、今回の採掘現場を訪れ、またブログを執筆するに当たって少しばかり下調べをしてみて、改めてその難しさを実感しました。
この採掘現場を運営するBosai Mineral Incは中国資本の会社で、ボーキサイトの主な輸出先は中国なのだとか(現場関係者談)。しかし、Wikipediaによれば、中国自身、ボーキサイトの生産量はオーストラリアに次いで世界第2位(ガイアナは12位)です。
中国は世界のアルミニウム生産量の6分の1を占めるそうなので、産出しながら輸入もしているのでしょうが、こうした事実は世界のアルミニウム需要がいかに大きいのかということをよく表していると思います。また、今後、世界全体の経済規模が拡大していく限り、需要はさらに伸び続けるでしょう。
もちろん、自分はアルミニウムの消費量世界第3位の国の出身であり、同世界第2位の国で生活しているので、採掘企業はもちろん、中国やガイアナのことを批判できる立場には全くありません。ガイアナの森林保全に直接繋がることはなくても、せめて今後は極力缶ビールを避け、瓶ビールを選ぼうと思いました。
採掘現場から採取した土砂を載せて行き交う巨大トラック(筆者撮影)


