みなさん、こんにちは。フィリピン事務所の岡村優子です。
ここ二週間ほどの間、マネージメントに関するニュースや動きが相次ぎました。まずゼーリック総裁の2期目の続投せず1期(5年間)満了にあたる6月末での退任意向の表明、そして今年から新しく着任した東アジア・大洋州地域総局副総裁が地域を訪れてジャカルタと域内のカントリーオフィスをつないでのタウンホールが開催されたりしました。また、私の所属する東南アジア人間開発セクターユニットのセクターダイレクター・セクターマネジャーに加え、各国の人間開発セクターのコーディネーターが集結してユニットの戦略や方針についてのマネージメントミーティングが偶然にもマニラで開催されました。私の所属するセクターは最近新しいセクターダイレクターを向かえ、またフィリピンカントリーオフィスも新しいカントリーディレクターが着任されたことも重なり、これから新しいリーダーシップの基でのそれぞれの色が出てきて、新しい風がいろんなところで吹くことになりそうです。
さて、今日は2月の第二週目にあったミッションについて書きたいと思います。まず、世界銀行では一般的に出張をミッションと呼びます。つまり、DCベースの人が担当国に出張に行ったり、カントリーオフィス勤務の人が地方出張に行ったりする場合に「ミッションに行く」と言うのが一般的です。また、カントリーオフィス勤務の場合で出張を伴わなくても集中的にプロジェクトについてのミーティングを行うこともミッションと呼ばれていて、例えば既存のプロジェクトに対して行われる定期的に行われる「Implementation Support Mission」の場合は、プロジェクトによって期間・内容は様々ですが私の所属するチームでは政府のカウンターパートとプロジェクトの進捗・課題・今後の方針について半年に1度約2週間にわたって集中的な見直し・議論を行っています。
今回のミッションはASEAN諸国の最低賃金の分析のプロジェクトのためのもの。フィリピンが事例国としてとりあげられていて、私も分析を担当していて、ワシントンDCから二人の同僚が一週間来比しました。最低賃金の導入・見直しの背景は国によって様々ですが、低所得者の賃金上昇による貧困・不平等の是正、生産性向上の促進、労働者の負担による企業の利益享受などが正当化の理由として挙げられる主な理由です。
フィリピンでの国別事例では、最低賃金が貧困・福利厚生・不平等に与える影響を焦点とした分析を進める予定で、今回でのミッションの主な2つの理由は、@レポートに含まれるフィリピンの労働市場・最低賃金にまつわる制度についての情報収集をすることと、A最低賃金の変化が家庭所得に与える影響についてデータを用いた計量分析の方法を決めること。そのため、最低賃金の施行状況を把握したり、労働市場としての制度についての理解を深めるといった様々な当事者やステークホルダーから意見を聞く機会を設けると同時に、チーム内でもデータや計量経済のモデルを基にミーティングを行いました。
では、具体的にどのようなことをミッション中行っているのか?分かりやすくイメージが伝わるように、ここで日程表と一緒に一週間をご紹介したいと思います。
月曜日
Department of Labor and Employment(労働省)とミーティング。大臣、副大臣、最低賃金に関するガイドラインなどを定める国の委員会(National Wages and Productivity Commission)、担当部長、そして担当部職員を交えるミーティングとなりました。まず前回からの続きで社会保障と労働市場分野での課題についての話し合い。労働省側から前回協力を打診された分野の中から、更に絞込みを行って今後の協力テーマについて合意をしました。その後、最低賃金の分析プロジェクトについて、まず世銀から概要を説明した後、フィリピンの国別研究内容をより政府にとって実用的なものにするための意見交換を行いました。
チームミーティング。一週間の日程と、ミッションでの目的・成果物の確認。
火曜日
国際労働機関(International Labour Organization(ILO))とミーティング。フィリピンの労働市場についてのILOの見解や、フィリピンでのILOの取り組みについて話を伺いました。
賃金・生産性地方委員会(Regional Tripartite Minimum Wage and Productivity Board)とミーティング。フィリピンでは、国の賃金・生産性委員会(NWPC)のガイドラインなどに基づいて、17ある地域の委員会によって最低賃金は見直しが行われています。地域委員会は、政府代表(労働省・National Economic and Development Authority・Department of Trade and Industry)、労働者組合代表、使用者団体代表によって構成されています。地域委員会のメンバーから、賃金見直しの過程やそれぞれの立場からの意見を伺いました。
水曜日
フィリピン大学経済学部教授とミーティング。労働市場の専門家、関連の研究を執筆されている教授の方々とお会いして、私達の参考文献となっている彼らの研究に基づいて質問をさせて頂いたり、私達の分析に対してのアドバイスを頂きました。
チームミーティング。フィリピンの国別ケーススタディの章で用いる分析手法についての打ち合わせ。具体的には、最低賃金改正が家計所得に与える影響を図るための計量分析を行うため、利用可能なデータの確認や計量経済のモデリング手法を話し合いました。
木曜日
アテネオ大学経済学部教授とミーティング。フィリピン大学と並んで有名な私立大学です。学界ならびに政府・国際機関でも活躍される学部長のフィリピン労働市場についての見識を伺います。
労働者組合(Employees’ side)とのミーティング。労働者の視点から、労働組合としての取り組みを伺います。労働者組合・使用者組合ともに、賃金・生産性地方委員会にはポストがあり、最低賃金見直しのプロセスに関わっています。訪問した労働者組合では、労働者のスキルやリソースへのアクセス向上のために、研修や小額規模・短期間の融資といった独自のサービスも展開していました。
使用者団体(Employers’ side)とのミーティング。雇用される側と雇用する側、両方からの意見を聞くために、使用者団体からもお話を伺います。
金曜日
非正規(インフォーマル)セクターについてのミーティング。リソースパーソンは国家貧困撲滅委員会で非正規セクター評議会の代表。一般的には労働法の外にいる非正規労働者を対象にした、社会保障への加入を促進する仕組みがあることなど、社会保障含む社会サービスの恩恵を受けたり生産性を向上させていくなど非正規雇用者をメインストリーム化していく動きについてのお話を伺いました。
同じ分野での分析を行っている世界銀行のコンサルタントとミーティング。企業のデータを使って最低賃金の地方分権化の分析を行っているコンサルタントと、それぞれの分析計画について情報共有を行います。
チーム最終ミーティング。一週間のミーティングを要約し、今後のタスク・タイムラインを確認。
この日程表見ていただける様に、まさにいろいろな立場の方から意見を聞くためのミーティングが立て続いていて、その合間にチームミーティングを入れていくといくという感じで一週間があっという間に過ぎていきました。更に、今回のミッションのテーマは最低賃金という特定のトピックでしたが、最低賃金を理解するためにはフィリピンの労働市場環境や労働法全体、更に労働市場に留まらずその他の成長抑制要因となっていると指摘されるインフラの問題なども含め社会全体のシステムについて理解する必要性をミーティングを重ねたり文献を読むごとにひしひしと感じました。
例えば、途上国では社会の大半を占める非正規セクターにおいて、現在法律の適用外に存在し、社会保障の制度の恩恵が届かない脆弱な人々にどのようにアプローチしていくか?労働市場関連の制度は確立していても、免除条項や報告・監視体制の兼ね合いで非常に弱い施行状況をどのように捉え、法律を制度・施行一体と捉えてより現実的に意味をなすものにしていくべきか?最低賃金が既に平均賃金に近い高い水準にある状況下で、ビジネス環境の競争力を考慮してどのように向き合っていくのか?また、フィリピンでは雇用期間が5ヶ月を超えると、雇用者側への社会保障などを含む責任・負担が重くなるため、短期雇用を繰り返す雇用慣習が蔓延る状況。より良い労働環境・市場・成長への障害と同時に改善の余地は様々なところに存在しています。
ミッションは成功裏に終わり、私は次のステップとしては同僚と最低賃金のフィリピン事例の分析を掘り下げていく作業が待っています。これから分析を進める中で、労働市場全体の課題や社会保障と労働市場のつながりなど大きな視点を常に意識していきたいと思います。

マニラ市内、幹線道路脇の路上店

イロイロ市マーケット内の干物屋さん

コロン島、港脇のマーケット風景


